白い杖の先には
先月号「バナナの実り、邪馬臺国」の続きです。
先生所有900坪の大温室に案内され、温室に入るなり驚きと大感動です。10数メートルに成長した世界中の十数種類のバナナの群落をはじめ、マンゴー、パパイヤ、アボガド、パッションフルーツ、晩白柚などが一年中、大温室の中で次々と実り続けているのです。ブーゲンビリアなどの熱帯の美しい花々も綺麗に咲き乱れています。
当時、私は晩白柚など知りませんでした。それで「先生、晩白柚って何ですか?」と問うと先生は「ザボンみたいなものだがザボンより大きな実をつけ美味しい柑橘類のひとつだ。タイ国のバンコクから来たので頭文字にバンコクの晩をつけ白柚なので『晩白柚』と名付けた」と教わりました。もう一つ気になることがありました。これだけの大きな大温室です。冬場の暖房費が随分と重み大変だろうと思って恐る恐る聞くと、暖房ボイラーの燃料代が半年で約5百万円かかるというのです。私がビックリして驚いていると、先生の作詩作曲された絶唱「島原の子守唄」の著作権印税収入がちょうどそのくらい毎年あるので、それで賄っていると教えてくれました。先生は講演も数おおくなされ、大山にも何回も来ていただきました。あるときムラの青壮年に呼びかけて、15名程の希望者をつのり、先生を訪ね大温室に案内されました。先生が先頭に立ち白い杖を持って歩き、白い杖で南国の果物や植物を指し説明を続けて行きます。「このバナナは明日が食べ頃だ」とか「このマンゴーはまだ早い三日後には美味しく食べられるだろう」と説明するので行った仲間は、何で解るのだろう、目は見えているのではと疑いの目で見ています。私達15名ほどは先生の後について大温室内を見てまわっていました。そんな時でした先生が大きな声で「誰だ、いま冷蔵庫の扉を開けたのは」と怒鳴ったのです。皆、何が起きたのか理解できず重ねてビックリです。最後尾は、20メートルほど離れて付いてきています。その最後尾の者が温室の隅にある冷蔵庫には何が入れてあるのだろうかと、興味津津に扉を開けてみたのでした。もちろん音も何もしません。20メートルほど先を行っている盲目の先生に、何故わかったのか同行者は理解できませんでした。あとで先生に「あれはどうして解ったのですか」と、問うと「私は目が全く見えない、そのため嗅覚が鋭くなったのだ、鋭さなどという感覚を通りこして一種の生理現象になっているのだろう」こういわれました。
冷蔵庫は古い物でした。電源は入ってなく、先生は農薬を保管する、保管庫として利用していたのです。扉を開けたとき、誰も気が付きませんでしたが、先生には薬の臭いが届いたのでした。
先生は「私は日本一の小作人」と自称して約15,000坪の農地を借りて馬鈴薯や薩摩芋、里芋、大根、穀類なども栽培してました。そして、それらの産品の一部はバナナなどと一緒に、福岡市天神のデパート岩田屋の地下一階食品売場に「宮崎康平コーナー」が設けられ販売していました。私は福岡市に出るたびに、そのコーナーを訪れみていました。その中に「干大根」も並べられてましたが、あまり売れているようではありませんでした。次に島原の先生宅を訪問した折に、先生あの「干大根」はあとどれくらい在庫を持っていますかと問うと、何故かと問返されたのです。よろしければ私の方で買い取らせていただきます。と応えると、400キロぐらい在庫があるというので、先生その全部を1キロ 2,500円で譲っていただけませんか。と相談すると、先生は大喜びで、商談が成立しました。そして、一年間先生宅で無報酬で研修作業をした者に与えられる「地鶏宮崎22号」を三番鶏(雌雄各3羽)を有難く頂戴いたしました。