牡丹餅とお萩
日本の夏を代表する、大切な年中行事のひとつがお盆です。先祖や故人の霊が帰ってくるとされ、日常を離れた「異界交流」の特別な機会でもあります。人の霊は遠くに行かず、故郷の山々から子孫を見守り、お盆には家に帰ってきます。家ごとに先祖の眠るお墓にお参りして、あの世から戻ってきた先祖の御霊を家にお迎えして、お盆の三日間を一緒に過します。お仏壇の前にはお供え物の繕を用意します。そのお繕の上にはご飯や煮付物、果物、野菜、団子や菓子、水や酒などが供えられます。日田地方では仏様となった祖先の霊を「精霊様」と称して崇め敬う習慣が根付いています。そのお繕に供える鱈胃の煮染や精霊様団子は日田地方独特のものでしょう。お盆は家族や親戚が集い、一緒に過去、現在、未来と広く何でも語り合う心の交流の場ともなります。このお盆の先祖の供養については、平成29年9月号で詳しく述べましたのでこのくらいにします。
お盆も過ぎたかと思うともう秋がやってきました。今日は10月1日(木)農協では昨日、業務終了後より昨夜遅くまで職員が上期決算(4月1日より9月30日)のため、それぞれの担当部所ごとに現金や商品、資材、原料、仕掛品等すべての在庫品を棚卸し実査して野帳に記載しました。それらが正確に実査記載されているかを、理事監事の役員全員が出て確認検査をしています。また、今日は旧暦の8月15日です。そう今晩は一年の中でも最も美しい「仲秋の名月」です。ただし暦と月の動きとのずれで、いつも満月とは限りません。今夜は満月の1日前です。今年は明日2日が満月となっています。この季節は農作物が収穫される稔りの秋、五穀豊穣の時季でもあります。豊作と収穫への喜びと感謝の気持ちを、大自然に宿る神々に捧げます。私たちの子供の頃は、鶏小屋や南瓜棚の上に、茹で栗や蒸し唐芋や枝豆など採れた農産物をお盆の上にのせ、お月様に手向けてお供えしてました。子どもたちは一軒一軒を「上げたかい・引いたかい」と訪ねて歩きまわりました。「上げた」と家の人が言えば探し出します。探し出せれば自分の物となります。家の人が「引いた」と言えば誰か他の子供が先にやってきて探し出したことになります。これも子供の頃の楽しみのひとつでした。
この季節になると草むらの至る所から虫たちが、秋めく夜風に乗って鳴き声を競います。そんな虫たちの独唱、合唱を聞いていると、童謡の「虫のこえ」を口遊んでしまいます。「あれまつむしがないているチンチロ、チンチロ、チンチロリン、あれすずむしもなきだしてリンリンリンリン リインリン あきのよながをなきとおす ああおもしろいむしのこえ」祖先たちはこの時季、庭や畑に出ては月を愛で、虫の声を聞き楽しんだでしょう。明治の俳人 正岡子規は病の床にあっても健啖であったといいます。「病牀に日毎餅食ふ彼岸かな」おはぎは好物だったと残してます。私の家では、ほとんど「ぼたもち」と呼んでました。「おはぎ」と「ぼたもち」の呼び名の違いを知ったのは後々の事でした。実際には小豆と、もち米で作る同じものだが、春の彼岸のお供えは花のボタンに見たて「牡丹餅」。秋の彼岸のお供えは花のハギに見たて「お萩」と呼ばれるようになったとされています。春秋のお彼岸は「牡丹餅とお萩」をこしらえて先祖と語り合いたいものです。仲秋の名月や虫たちの声に誘われ、あれこれ思いを巡らせた秋の夜長でした。