利他の心

組合長エッセイ3月号

今回は身の丈に合わず、分相応を越えた念いを綴ってみます。京セラの創業者で名誉会長の稲盛和夫氏が昨年の8月24日に、老衰のため死去した。90歳だった。と新聞各紙をはじめ各報道機関は大きく報じました。日本を代表する経営者として、その名を知らない人はいないでしょう。京セラやKDDIを創業し、それぞれ一.八兆円、五.四兆円を超える大企業に育て上げ、経営破綻で倒産したJAL(日本航空)の会長に就任すると、僅か二年八カ月で再上場へと導きました。功績はそれだけに留まりません。中小企業経営者の勉強会「盛和塾」の塾長となり、国内五十六塾、海外四十八塾、塾生数は二万六千名に及んでます。それは創業した京セラ、第二電電(現在のKDDI)そして日本航空の短期間での再生再建で絶大なリーダーシップを発揮し事業を発展させました。そのカリスマ(超人間的)経営者、稲盛和夫に教えを請おうと、主宰する盛和塾に多くの経営者が集ったのです。代名詞となった「アメーバ経営」、リーダーの心構えを説いた「利他の心」は知る人ぞ知るです。アメーバ経営は会社の組織を小集団に分けて運営管理する手法です。人数は7~8人。その時々で小集団を最適な組織に分割統合するためアメーバと呼んでます。アメーバは毎月、売上と経費に基づく採算表をつくります。その差が利益でそれを労働時間で割ったものが「時間あたりの採算」です。アメーバは売上を最大に、経費を最小にするため、全員が常に採算を意識するよう心がけ仕事をするようになります。しかも毎月、年間計画に対する意識が高まり、達成の度合が確認されるため、未達の場合はリーダーを中心に皆で知恵を出し合い改革改善を議論し行動に移します。独立採算制のため、組織内でも市場価格で取引することで甘えの体質が許されず、市場を意識するように変ってきます。京セラはこのように理念経営に徹して貪欲なまでに成長を続けてきました。「利他の心とは、自分を犠牲にして他人に利益を与えること、そして他人の幸福を祈り願うことです。」とかく人というものは愚痴や不平不満を鳴してしまうものです。しかしその愚痴や不平不満は、結局は自分自身に返ってきて、自分自身をさらに悪い境遇へと追いやってしまうのが常ではないでしょうか。人はどんな境遇にあろうとも感謝の心というものを忘れてはならないのだと、私は思っています。人のため世のために尽くすことが、人間としての最高の行為であるというのが私の人生観であります。心に描いたものは必ず具体化していき、心に描いた人生が出現していくと思っています。卑しい心を持っていると卑しい人生となります。反対に美しい心を持っていると、美しい人生になる、だから自分を蔑ろにしてはなりません。立派な経営をするのに、大切なのは心の手入れです。それは業種が何であろうと、規模がどれくらいであろうと、国がどこであろうと変らない。経営者自身が常に悪しき思いを打ち払い、心の手入れを怠らずに人徳を高めていけば、因果応報の法則に従って、物事はよい方向へと運び大輪の花を咲かせます。このように稲盛和夫氏は遺しています。すこしでも近づけたらと心得て私も日々精進してまいります。

次号に続く

京セラKDDI創業名誉会長 稲盛和夫氏

(京セラ株式会社より写真提供)