食あれば 楽あり

令和6年NPC2月号組合長エッセイ

小泉武夫先生(80歳)は福島県の造り酒屋(酒造家)に生れた方です。現在、東京農業大学名誉教授であり、全国の8つの大学校の客員教授でもあります。著書も160余冊を出版され、日本の発酵学・醸造学の権威者です。農業博士としての多岐にわたる食文化論は多くの人に感銘を与えています。特に日本経済新聞に30年間連続掲載中の「食あれば楽あり」は読む人の心を、なるほどそうかと魅きつけて忘れられないほど深い感動を与えています。そんな先生ですから大学の講義や各種団体による講演、執筆依頼、TV出演・新聞・雑誌の取材等で超多忙な日々を過ごされています。そんな先生に13年前の第6回と、9年前の第7回全国梅干コンクールの審査委員長をお願いしました。どちらも一年ぐらい前にお願いしたのでしたが、2回とも断られました。二度目の時に先生が言われたのが、「ヤハタさん、私は嫌いで行かないのではありません。私の日程を確保するには一年半か二年前に日程要請をして下さい」という回答だったのです。私たちの先生の活動に対する理解が甘く不十分であったと知らされ反省しました。そこで第8回の開催にあたっては審査日を令和元年10月28日(月)と表彰式を11月10日(日)開催を約2年前に決めました。しかも表彰式には「木の花ガルテン開設30周年記念式典」も合わせて開催することとし、広瀬勝貞大分県知事にもご来臨をいただくことを決定したのでした。お蔭様で皆さんのご支援、ご協力によりどちらも大盛会で終えることができました。

この時の先生のエピソード(本筋からそれた話)があります。梅干コンクールが終って審査委員の先生10名と、関係職員10数名が参加して、木の花ガルテン咲耶木花館(喫茶)を貸切って慰労懇親会を行いました。料理はレストランオーガニック農園の農家もてなし料理と、Aコープの刺身鉢盛に加えて「鰻の湯引」を提供しました。さすがに食の大家といえども鰻の湯引は食べたことが無かったようで、鰻湯引きに指を差し「ヤハタさんこれは何んだ」と問います。こちらも悦に入り「先生、知りませんか、鰻の刺身です」と返答すると、審査委員として参加していた湯布院の大御所、旅館玉の湯社長溝口薫平さんと亀の井別荘主人中谷健太郎さんの二人が「ヤハタさん鰻の刺身は出せないでしょう」と横から責めてきます。

私は茶目っけを出し、「そうですネ湯布院の優等生には無理でしょうネ」と返すと二人は呆気にとられたように唖然としています。私は、「鰻の刺身といったから出せないと言うのでしょう、これは刺身では無く湯引という調理食品ですから提供しても良いのです」と説明すると納得したようなしないような様子です。そしてお二人も口にしてこれは美味いと賞味する。小泉先生はこれは初物だと誉め称えて一皿鉢を平らげてしまいました。そして12日後の表彰式に審査委員長として再来するので、「ヤハタさん次回は一番先にこの料理を出してくれ」と仰せられたのでした。第9回全国梅干コンクールも約二年前に先生の審査委員長としての日程を確保して昨年秋に開催することができました。

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鰻湯引き料理で盛り上がる(令和元年10月28日)