令和6年NPC9月号組合長エッセイ

水は貴重な宝物

 2010年(平22)に「6次産業化法案」が閣議決定され、農林漁業の活性化と持続的発展に寄与していると先月号で綴りました。そしてその法案は、大山の農業者と農協の実践活動とその成果が原点であり、更にその原典を遡ればイスラエルのキブツ(集団農場)研修で知り得た農村工業だったのです。私たちの大山は立地や耕地に恵まれず、1戸当りの耕作面積は狭い段々畑や棚田をいくつも合せて、ようやく4反(4,000平方メートル)しかありません。厳しい山々に囲まれているために拡大する余地もありません。そんな条件に恵まれない大山の農業は広さを求めるのではなく、次元の高い土地利用を考えていかなくては、暮らしや生活を維持することが難しくなります。けれどもまわりの経済や消費生活が次々と拡大していく中で、土地のみに基盤をおいた農業を進めても、その場しのぎでしかないでしょう。つまり生産の一次産業に限られた農地での農業は先が見えていたのでした。このまま土地に執着するだけの農業では、将来は必ず行き詰まるであろうと気が付いたのです。そんな将来に打開策を見出せずに悩み苦しんでいた頃に、イスラエル(1948年建国)のキブツ研修が始りました。この国は降雨量も少なく水に恵まれず、荒野、砂漠といってもよいほどの痩せた粗末な土地です。キブツはそんな荒野で不毛の地を開拓してつくられた農村です。私たちは「運命共同体」の集団農場と理解しました。大山からの研修生が入国して滞在をはじめたのは建国して23年が経った頃です。人が生きていくためには先ず水が必要です。そして農作物の栽培にも水は切っても切れない必要不可欠な宝物です。この水をイスラエルは、電気アップ等で国内のいくつもの高い山に揚水して、パイプを国土に張り巡らし、国内全域に給配水してます。貴重で少ない水だけに、その水の利用方法などは素晴らしく合理的です。そんな条件に恵まれてない土地で、しかも建国して間のない貧しいであろうと思う農村が、とても豊かで文化的な生活を楽しんでいます。振り返って私たちの大山では雨は定期的に降り地下水も豊富で、そのまま飲まれる清水もいたる所で渾渾とわき出ています。土地も肥沃で作物も元気よく育ちます。当時キブツの人たちが、私たちに語った忘れられない言葉があります。「あなた達、日本人は水は無限にあり無料だと勘違いしている。水に対する基本的な考え方が間違っている。その事に気が付かなければ、何事も成し遂げられないでしょう。この国では水は有償の貴重な宝物です」本当に衝撃的な言葉でした。そうした中、何故キブツが豊かで高度な文化的生活が享受できるのかを考え、見えてきたのが1次産業の農業収入以外に農村工業の2次産業収入、更にそこで生産されたものはキブツの住民である農民、自らが流通販売を行い、3次産業の収入も得ることで組織的に高い収益を確保しているのでした。私たちの研修はこれらの組織や仕組みそのものをつぶさに観察して、大山流の農村工業と流通販売を作り上げてきたのです。このことについては後日、機会を得てまたお話ししたいと思います。

恵まれた大山の清らかな水源