米寿の細やかな宴
令和4年組合長エッセイ7月号
先月号「雪は天から送られた手紙」の続きです。
由布院の中谷健太郎さんの伯父様、雪氷学第一人者で、世界で初めて人工雪を作ることに成功した、中谷宇吉郎博士のことをちょうど書き終えたころでした。「金沢市の北國新聞、今日(5月30日(月))の一面に「中谷博士の『雪』原稿発見」と大きく記事が出ています。」と、ほんとうに近しい知人から写メールが届きました。内容は約60年にわたり所在不明の生原稿が見つかり加賀市にある「中谷宇吉郎・雪の科学館」に寄贈されたとの記事でした。「摩訶不思議」というか「縁は異なもの味なもの」と譬えは違うかも知れませんが、不思議なご縁を感じビックリでした。話を意図するところに戻ります。米寿を迎えた由布院の溝口薫平、中谷健太郎両氏のお祝いです。5月7日(土)に主催者発起人の一人、垣添忠生先生を福岡空港に出迎えて大山まで来ました。そして宴席に出します「農家もてなし料理・百のご馳走」お祝繕を特別に用意していたので、それらの料理と飲み物類を車に積み由布院へと向かいます。亀の井別荘内にある『雪安居』に着いたのが午後4時頃でした。両ご夫妻は同地で開催された、音楽コンサートに立場上どうしても出席せねばならず留守でしたが、一時間ほどして薫平・喜代子、健太郎・明美両ご夫妻はコンサートを途中退席して帰ってこられました。それから持参の田舎料理で、米寿の細やかな祝宴の始りです。約50年前の由布院というのは、今のように人に知られた温泉地でもなく、零からのスタートというより、むしろマイナスからのスタートではなかったのではないでしょうか。そんな由布院温泉を全国ブランドに育て上げた中心人物がお二人です。その名声は全国に知られています。そして文化賞等、素晴らしい賞も数々と受賞されているお二人です。話題も豊富で、しかも話術も巧みで人を引き付け感動の渦の中に巻き込んでいきます。私はよく余所の人たちから「由布院の観光の魅力は何ですか」と問われます。その場合にはこう応えています。「それは人間観光です。溝口・中谷というお二人の巨人が居るからでしょう。文人墨客をはじめとする、一流の方々がお二人にお会いして、その人間的魅力の擒となりその大きな渦の中に巻き込まれ、その感激と感動を誰かに語り継いでいくからでしょう」そんなお二人の米寿を祝う小宴ですから、話題は尽きず楽しいものです。持参の田舎料理もコロナ対策のためおせち用の重箱に一人、一人の分を詰め合わせました。中谷さんが「垣添先生が『雪安居』に宿るのはよいが、問題は食事の料理じゃなぁ我家では、できんぜぇ」と心配されたのですが、皆さん結構満足のようでご機嫌で歓談が続きます。このままでは合歓木に合歓の花が咲くころとなりそうです。先月号で述べましたように、両宿とも満室で宿る部屋はありません。私は大山の自宅まで帰らなければならないので、帰路の運転に家内も同行してました。十時が近くなりましたので、そろそろ御開きにしましょうと申し上げました。そして垣添先生は一人その『雪安居』に宿るようにして私と家内は帰路についたのでした。
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