歳神様
一年の経つのは早いものです。若い時代には正月3日が終えれば童謡にもあるように「早く来い来いお正月」と次の正月の来るのを待ち侘びたものです。しかし歳を重ねるほどにアッという間に「もう一年が経ったのか」と思い感じるように月日が過ぎていきます。そこで今月は元旦と元日の言葉の違いを考えてみます。元旦という言葉は元日のチョッと畏まった言い方だと、勘違いしている人が意外と多いのではないでしょうか。例えば「元旦のお昼に、家族皆でお雑煮を食べました」と言っている人もいます。夜のテレビ番組で「元旦スペシャル」と冠の題名が付いていたり、お店の売り出しが「元旦は午後1時より開店」とか、居酒屋さんが「元旦は夕方5時より営業します」このような案内を見たことがあると思います。そうではありません、これらはみんな間違いです。元旦とは、元日すなわち1月1日の「朝」のこと。ですから「元旦の朝」というのは重複表現になり正しくありません。「旦」という字は、「上の日が太陽」を表し、下の横線が「地平線から昇る朝日」の意味をもっています。そして「元」はいうまでもなく始まりで原点の意味です。初日の出を拝み、一年の始まりを心に描きながら厳かに祝う朝の儀式が元旦という言葉でしょう。また新年に欠かせないのが「しめ飾り」ではないでしょうか。しめ飾りは新年の願いを結ぶかたちとして、古い歴史を繋ぎ受け継がれてきました。しめ飾りは正月に御歳神様(新しい年の稲をはじめ穀物を授ける守護神)を迎える準備として、家の内外に飾り付ける藁で作ったお飾りです。その種類は玄関はもとより、神棚、床の間、工場、倉庫、車、昔は竈、今は台所と飾る場所は様々です。また地域によって独自性があり姿形も異なります。一般には、家をまもる祖先の霊魂は「年神様」とか「田の神様」とか呼ばれています。家を起こした遠い祖先の霊が、多くの祖霊や水の神、風の神などと家にやって来られるといわれています。私たちは四季の移り変わりの節目ごとに年中行事を行ってきました。正月は、農耕のはじまりとされる新しい春が始まるもっとも大切な日であります。旧暦の正月は2月はじめごろに来ますが、古代の農民はそのころから田畑の整備など稲作の準備をはじめました。そのため春の始めに田畑を護ってくれる歳神様や先祖を崇め祀ったのです。これが正月行事の起こりのようです。門松は歳神様を迎えるための家の飾りです。そして鏡餅、みかんやお節料理は、歳神様にお供えする御馳走でした。私たち子供のころ祖父母は毎朝、炊きたての「御飯」をお供え用の小鉢に盛って、それを「御仏飯」とか「御供」(神前に供える物)さまと称し仏前といくつかある神前にお供えして、何かを語りかけてお祈りしていたのが懐かしく記憶の中に甦ってきます。
この一年は新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中の人々が社会・経済・生活とあらゆる面で苦しめられ、日常の生活で大きな打撃を受けています。歳の暮れには、この一年を振り返り、良かったことは喜び、苦しかったことは忘れ去り、「兎に角」一年を無事に過せたことを歳神様に感謝して、夢や希望のある新しい歳の温かな元旦、元日を迎えましょう。