精霊様トンボと虫の声

古来中国では、色と四季を組み合せ、「青春、朱夏、白秋、玄冬」という言葉を生み出しました。青春は芽吹きを、朱夏は熱暑を連想します。白秋は静寂、玄冬の「玄」は黒色を表し、春への胎動を含んでいます。
今年の夏はチョッと違い、お盆前は暑い日が続き、早くから沢山の「精霊様トンボ」が青い水田の上を飛び舞っていました。本来であれば精霊様トンボと呼ぶようにお盆の頃から田んぼの稲穂が黄金色に染まる頃に、飛び交う姿を想っていたのです。精霊様トンボの正式な学名は「アキアカネ」となっています。もうひとつ、平年と違っていたのは、虫の声です。

  1. あれ松虫が、鳴いている ちんちろちんちろ、ちんちろりん 
    あれ鈴虫も、鳴きだした りんりんりんりん、りいんりん
    秋の夜長を、鳴き通す ああおもしろい虫のこえ
  2. きりきりきりきり、きりぎりす
    がちゃがちゃがちゃがちゃ、くつわ虫
    あとから馬おい、おいついて
    ちょんちょんちょんちょん、すいっちょん
    秋の夜長を鳴き通す
    ああおもしろい、虫のこえ

子供の頃に歌っていた、文部省唱歌です。
その虫の音の大合唱が今年はすくなく聞こえます。
地球温暖化による気候変動の影響でしょうか。
確かに、初夏から日本列島の広範囲で降り続いた雨は、長かった。その後も不安定な天候が続いています。7月のはじめ頃だったと思いますが、長野県の友人から電話が入りました。「ヤハタさん雨の被害は出ていませんか」「こちらは大変です。レタスは雨で全滅です。ブロッコリー、キャベツは何とか持ててます」長野県の高冷地野菜の産地南牧村と川上村です。標高の高い寒冷な地域である特長を生かし日本一のレタスの産地に育ってました。一戸の農家がレタスだけで二億円前後の生産高を誇っています。そのレタスが全滅したので、次期作のレタスや他の野菜を早急に植えているということでした。国連の気候変動に関する報告書では、温暖化が進めば降水量や乾燥現象の厳しさを、更に強めると警告しています。「数十年に一度」「これまで経験したことのない」といった表現を次々と聞くようになってきました。トンボの舞いや虫の声だけでなく、日本の伝統的な風土や情緒が、早い速度で壊されていくようです。温暖化対策は待ったなしの喫緊の課題となっています。先ずは世界のリーダーたちが先頭に立って問題解決を探るべきではないでしょうか。
農業にも深い感心と愛情を持ち、大山農業の今日の姿を高く評価されていた、著名な経済評論家 内橋克人氏がこの9月に89歳で他界されました。謹んで哀悼の意を表します。その内橋氏が生前に『記録的豪雨と洪水が世界を震撼させている。今年7月半ば、これまで自然災害が比較的少ないとされてきたドイツが「100年に一度」の巨大集中豪雨に見舞われた。西部ノルトライン・ウエストファーレン州で河川が氾濫し、家屋は流され、犠牲者はおびただしい数に上った。わずか24時間足らずの間に月間降水量の2倍を超える豪雨が流れ落ちた。ドイツにとどまらず、異常気象がもたらす災禍は欧州全域を覆う。加えて苛烈な「熱波」が地球を包み始めた。「災害列島」に生きる私たち日本人。「日常化する気象異変」へのおびえは先鋭化している。加速する気候危機に加えて新型コロナ禍のパンデミック(世界的大流行)かってない脅威にさらされ、人類は立ちすくむ。今、私たちはその「温室効果ガス」を出し続ける大気汚染への認識を深め、自然環境を取り戻す旗を高く揚げ、過去とは違う「新たな日常」を世界各国と共に描き出すことを明快に打ち出すべき時に、私たちも向き合っているのではないだろうか。農業者も人間の誇りを失わず、人々に喜んでもらえる仕事である事、そして働き甲斐のある人間らしい仕事である事を忘れてはならない』と述べてました。
私たち農業者も「新たな日常」に向ってできる事から一つずつ歩みを進めていかなければ、と強く思います。

お盆の頃に舞う精霊様トンボ