帰りなんいざ 故郷の農村へ

 第49回の衆議院選も10月31日に投票、そして即日開票され、定数の465の議席が全て決まりました。与野党の幹部や官僚を勤めた大物議員が、相次いで小選挙区で落選したり、比例代表で復活したり、できなかったりと悲喜こもごもでしたでしょう。苦戦と言われていた自民党も、底力を発揮して想定外の絶対安定多数の261議席を確保して、引き続き政権を担当していくこととなりました。
いま、新政権に私たちが求めるのは、もちろん課題山積の農業問題を解決に導き、明るい農村未来への創造です。しかしながら国家として一番に取り組んでもらいたいのは、コロナ禍の克服と日本経済の底上げです。感染症の拡大は下火になっているとはいえ、万全な体制にはほぼ遠く、経済、社会、賃金所得等の格差はますます広がってます。困窮する個人や企業、農業者への支援対策も強く望むところです。かつて米国のブッシュ大統領の発した言葉を思い出します。「食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ」「食料を他国に依存するような国に真の独立国はない」このように食料は、戦争での兵器以上の力を持っていることを述べています。詩人であり彫刻家、そして「智恵子抄」で有名な高村光太郎も「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これをなくして真の独立はない」と言ってます。食料を握られることは国民の生命を握られ、国の独立を失うことです。経済界の中には、商工業で儲けてその利益で食料は輸入すればよいと単純で軽率な発言をする方もいます。先にも述べましたが、コロナ禍が世界中に大打撃を与えています。新型コロナウイルスの感染症拡大は、多くの人々の経済と生命と暮らし、そして私たちの日常と生活と社会を大きく変えています。自由経済社会また貿易の自由化で、人・モノ・金の移動が国境をまたいで自由に行き来できるのが理想とするグローバル化社会(世界的規模)の実現をめざしてきました。しかし予想もしてなかった新型コロナウイルスの感染症拡大で、人とモノの移動が厳しく制限される事態となり、ようやくみんなが気が付きました。そのひとつがマスクです。マスクは大半が中国で作られ日本に輸入されていました。このことは国民のおおかたが知りませんでした。いざという大事な時には店頭から消え、人々は買うに買えず右往左往です。これからの世界の人口は現在の75億人から、40年後には100億人になると想定されています。これを食料に変えてみましょう。日本の「食料自給率」は現在37.0パーセントです。つまり食料の不足分63.0パーセントは外国からの輸入に頼っているのです。マスクと同じように外国から輸入されなくなったら100人のうち63人は餓えることになります。こうしてみると食料の自給率向上と安全確保は避けてとおれないのです。私たち農家組合員は、国家・国民生活そして食料安全保障の重要な役割と使命を担っているのです。これからの政権政府には強く求めます。食料自給率・自給力の向上や農業農村の所得増大を目指すなどの公約の具体化と農業農村の生産現場と地域の切実な声を洩れなく掬い上げる農業政策を実現してもらいたいと願います。
「帰りなんいざ 田園将に蕪れなんとす 胡ぞ帰らざる」中国の詩人陶淵明の「帰去来辞」です。さあ職を辞して故郷に帰ろう。ふる里の田園は荒れ果てようとしている。どうして帰らないで居られようか。と詩ってます。山や川、森に囲まれた農村の田園には人の心を滋養する不思議な力があります。生命の源である農村と田畑や山林を荒れたまま放置・放棄はできません。「帰りなんいざ 農村へ。」

堆肥散布する農協援農隊