田畑を耕し、心を耕す

「土竜打ゃ―14日、あずき飯ゃ―15日」と1月14日は子供達が集まり大きな声を出して、稲藁と篠竹で作った「モグラたたき」で、地面を叩いてまわってました。正月が明けるとそんな子供の頃の農村行事を懐かしく想い出します。祖父さんが、親指ぐらいの篠竹を山から伐ってきて、長さ1.5メートルぐらいの長さに切って、その篠竹の先に一升瓶を半分にしたくらいの太さの稲藁を固く巻いて縛り付けます。
祖父さんが作ってくれた、そのモグラたたきで地面を叩いてまわり、田畑を荒らすモグラを脅して追い払うのが正月14日のモグラ打ち行事でした。そして使用したモグラたたきは敷地内にある柿や梨の木に括り付け、その年の五穀や果物等の農産物が豊かに実り、多くの収穫が得られるように豊年満作を祈りました。
翌15日は「あずき飯」を炊いて家族みんなで食卓を囲み、病気など起きないように祈り一年の邪気を払いました。このように私たちの育った子供の頃の農村は貧しかったけれど、春夏秋冬に楽しいお祭りや行事が沢山ありました。そんなお祭りや行事には集落の人々が大勢集ったものです。子供たちは田舎料理のご馳走を食べ遊びはしゃぎ回り、まるで地域全体が天然の保育園であり学園のようでした。大人たちは神社の境内や道端に「ねこだ」(大型のむしろ)を敷いて車座になり、素朴でおいしい季節の田舎料理に舌鼓を打ち、語り合い、地酒を酌み交します。そこには終りを知らない楽しく心地よい和やかな時間、正直でユーモアたっぷりの人情味にあふれた本当の交流が続きます。農村の生活には必ず祈りと感謝が捧げられます。人々は生きものや自然を大切にする気持ちを素直に表現して、神に祈り助けを求めているのだと思います。こうして良心に従って日々の生活を送る中で、お互いの心と心を支え合い美しく生きることができるのではないでしょうか。そして堅い絆で結ばれた力強い農村の共同体社会が築かれていくものと信じています。私たち農村の人たちは田畑を耕すと共に心を耕してきました。仕事においても、人生においても一番大切なものは、人と人とのお付き合いであり、繋がりでもあると思ってます。お蔭様で私も多くの良い出会いに恵まれてきました。「巡り合せが良かったのじゃなー」と年輩の方々からの言葉もありましたが本当に有難いことです。そんな人と人との出会いが、人を育て、地域を育て、より良い方向へと導いてくれているのではないでしょうか。振り返れば長い年月の中、たくさんの方々より多岐の分野にわたり交流支援、そしてお付合いを頂き感謝してもしきれない思いでいっぱいです。大山が今日あるのはそのような良き人たちに巡り合い、貴重な教示や助言や支援をいただいてきたからだと思います。
私たちは、いつの時代も常に理想郷を求めて歩いてきました。生活や暮らしの中に夢や希望があり続けることが大切です。そして親子3世代が、ひとつ屋根の下で一緒に楽しく暮していけることが何よりも幸せなことです。
そのためには地域自らが個性と豊かさと繁栄への道を探し求め、また、その土地で生きる人たちが誇れる暮らしの豊かさを、創り上げていかなければならないでしょう。
農村は宝の山です。農村にこそ本当の暮らしと豊かさや楽しさが眠っています。

心を耕す 車座談義(昭和52年当時 農協広場)