名桜と美酒に酔う

 先月号の桜の続きです。青森県弘前城址公園の染井吉野桜は、平均樹齢の倍の樹齢140年経った今も、花は通常ひとつの花芽に3~4輪ですが、ここでも倍の7輪の花芽をつけています。散っても散ってもなくならない桜の花、それほど大量の花びらを散らしながらも頭上の桜はなお枝が見えないぐらい花を残しているのです。何故そうなったかは、先月号で紹介しましたので省きます。要するに桜に生命と情熱を懸けた桜守が居たからでしょう。桜守りで有名な方は、京都丸山公園に樹齢百年の枝垂桜を移植して見事に桜の木を甦らせて、訪れる人々に感動の提供を続けている佐野藤右衛門さんでしょう。代々、藤右衛門を襲名する佐野家十六代目です。昭和3年京都生れといいますから、93歳になります。その藤右衛門さんは、「接ぎ木(人工)のソメイヨシノばかりつくり過ぎてきた。自生の桜は姥いて風格が出、咲いた花も色気から色香に変わる。風土というと、京都は恵まれている。」とこのように語ってます。福島県の三春町には日本一の滝桜と称する国指定天然記念樹の紅枝垂桜があります。どうして日本一かといえば、その桜の樹齢は1,300年といわれ、その一本の桜の花が咲く頃だけで約30万人の花見客が訪れるからです。三春町は梅、桃、桜の三種の花が同時に開花することから「三春」の名が付いたといわれます。この周辺地域にはこの三春の滝桜が母樹(マザーツリー)となり樹齢三百~五百年の紅枝垂桜が百五十余本あります。大山に縁が深く何度も訪れていただき梅干コンクールで審査委員長もされた小泉武夫先生も福島県の出身です。「有名な『三春の滝桜』は私の通っていた高校のすぐ近くにあるので、思い入れは格別です。昔も今も桜の花を待つ気持ちは、恋人を待つ気持ちと同じで、ワクワクと胸が躍るものがあります。桜の魅力は、咲き始め、満開、散り際と、3度楽しめることです。染井吉野の他、枝垂れ桜、山桜、八重桜などたくさんの品種が美しさを競っているのも魅力でしょう。そして花見には酒が付きもの。野外で飲む酒は『遊び酒』といって風流を楽しむものです。私は花見ではまず桜に向かって乾杯し、目を瞑って熱燗をグビリと飲みます。その酒が喉を通り過ぎ、胃の腑から身体全体に熱くなるのを感じたら、目を開けます。すると、目の前に桜の花がピンクの霞となって広がります。これが最高。」こう先生は語って桜を愛でてます。遅咲きの八重桜の花びらも散り、鯉幟の泳ぎも仕舞われて、若葉の緑が目に沁みる季節を迎えています。私の子供のころは、四月の終りごろになると祖父さんが山の竹林に入り、根元が一升ビンぐらいの太さで、長さ10メートル前後に青竹を伐って遠い道程を何本も担いで家まで持ち帰ってました。そして鯉幟を上げる幟竿にして何本も立て、鯉幟を上げて孫たちを喜ばしてました。「屋根より高い鯉幟、大きい真鯉はお父さん、小さい緋鯉は子供たち、おもしろそうに泳いでる・・・」その頃の私の家の屋根は、今みたいな瓦葺きではなく杉皮葺きの屋根でした。5月5日端午の節句には母屋の杉皮葺きの屋根の軒先に古来から続けてきた魔除け、邪気を払うため菖蒲や蓬を挿してました。そして子供たちの頭には運動会で鉢巻きをするように菖蒲の鉢巻きをしてくれました。祖母ちゃんは無病息災を願い、おいしい粽や柏餅をつくって食べさしてもらったことを懐かしく思い出します。今は庭前に幟旗や鯉幟を立て、屋内の神仏前には甲冑・武者人形などを飾り男子の成長をお祝いします。

大勢の観桜者(三春の滝桜)