ひとを迎える農村

 先月号では、中国の詩人 陶淵明の「帰去来辞」「帰りなんいざ 田園将に蕪れなんとす 胡ぞ帰らざる」を書きました。
 ふる里の田園は荒れ果てようとしている。どうして帰らないで居られようか。と詩ってます。山や川、豊かな自然の森に囲まれた農村の田園には、人の心を癒すやすらぎと生命をよみがえらせ滋養する不思議な力があります。生命の源である、農村の原風景、田畑や山林を荒れたまま放置・放棄はできません。「帰りなんいざ 農村へ」です。欧州(ヨーロッパ、欧羅巴州の略)でもそうでしょう。40年ほど前だったと思います。「南仏プロヴァンスの12か月」という本が出版されました。英米で200万部の大ベストセラーとなりイギリス紀行文学賞を受賞、BBCでテレビ化もされました。
「こんな暮らしあれば、ほかにはなにも要らない」と英国の元広告マンがロンドンを引き払い、南仏に移り住んで至福の一年間の体験をつづる著書です。
石造りの農家、オリーブの古木、葡萄畑・南仏プロヴァンスに移り住んだイギリス人の、ユーモアいっぱいの「人間の楽園」からの報告。がっしりと土地に根を張って、日日の生活を最大限に愉しみながら生きている魅力あふれる農村の人々のありさまが、一種の懐かしさと憧れを抱かせます。「それにしても、ここプロヴァンスはなんと素晴らしい食べものとうまい酒と愉快な時間とに満ちているのだろう。こんな暮らしがあれば、ほかにはなにも要らない。」と語っています。大山も同じだと思います。農村には豊かな自然があり、春夏秋冬に咲く季節の山野草があり、樹々に咲く花も多数あります。そして春は梅の花から桜の花、桃の花と咲きほこり、新緑の若葉・青葉へと移り変り、秋の「錦秋」とも称される紅葉へと向かいます。「錦」それは、金銀の糸や種々の美しい色糸を用いて織り出された華麗な紋様の絹織物。そのような美しい絹織物に譬えられた日本の秋はまさに「錦秋」と称讃され悠久の昔より人々の心に受け継がれてきています。特に農村の秋ともなれば、田んぼには黄金色に実った稲穂が頭を垂れ、畑には古より私たち日本人が常食とする米、麦、粟、豆類、黍などの五穀と称する穀物が育ち、また野山には柿や栗、柚子、梨、ブドウ、アケビなどの果実が撓わに実り色づき収穫の食べ頃を迎えています。そんな豊かさと「豊穣の里山」が日本の豊かな農村です。春夏秋冬の旬の香りが漂い、管理の行き届いた美しい農村の原風景の中の田園、そこには素朴でおいしい食べ物が沢山あります。地酒を酌み交わしながら車座での終りを知らない楽しく心地よい語り合い、正直でユーモアたっぷりの人情味にあふれる人々との交流があります。
先月末より南アフリカなどで確認された新型コロナウイルスの新しい変異株が「オミクロン」と名付けられて欧州などでも拡大感染が進んでいると報道されています。
変異株とはコロナのウイルスが人から人へとうつっていくうちに遺伝情報の一部が変わってしまうことです。変異すると広がりやすさや症状の重さ、ワクチンや薬の効き目に影響が出る可能性が心配されています。日本でも警戒レベルを最高に引き上げました。世界は、いまこの予期せぬ新変異株コロナに未知の脅威で恐々としてます。私たちも充分な対応と対策を講じて乗り切ることが求められてます。その先に「ひとを迎える農村」が待ってます。

五馬媛の里で桜の花を愛でながら仲間と語り合う町内の皆さん